「う、うん。。。まあね」
不意を突かれた。感情が表に出るのを隠そうとしているところをズバリ突かれた。
「まあねっていうわりには、ニコニコだけど。。。」
シャツの感はするどい。
正直に言うと1週間が待ち遠しかった。
あれだけ会うのを避けてきた自分から誘うなんてできないけれど
いっそ「誘ってみた」的に、かるいノリでいってみたら
そんな以前の自分はなかったことになってたりしないかと
都合のいいことを妄想してみたり。。。
たしかに自分の中で何かが変わった。
おもしろそうなヤツだと思っていたけど
最初はなかなかコミュニケーションがとれなくて
自分は上手くやっていけるだろうかと思ってみたり
ビジネスライクな関係もありなんじゃないかとか。。。
工程10)ボタンホールをかがる&ボタンをつける
思い返せば、久しぶりに会って
開き直って素直に向き合ったのがよかったのかもしれない。
「むずかしいところがあるんじゃないか」と疑ったり
「もし失敗したらどうしよう」なんて不安がったり。。。
いつの間にか、おじさんと呼ばれても否定できない年齢になって
無意識に自分のフィールドを内へ内へ狭めてきていたのかもしれない。
「自転車は膝に負担が少ない運動」という触れ込みに反応してしまう自分に
違和感を覚えなくなって久しい。「自転車=移動手段」だったのに。。。
週に1回、いや月に2回ぐらい、夢中になれる時間、悪くないなぁ。。。
「おい、聞いてんのか?」
シャツの声で我に返る。
「ごめん、よく聞こえなかった。もう1回」
「だから、できあがったの!」
シャツは声を荒げた。
そして、元気なく続けた。
「 あとは。。。あとは。。。ボタンをつけて。。。終わちゃったのかなぁ、俺たち。。。」
「馬鹿野郎、まだ始まっちゃいねーよ」
そう言い残して僕はボタンを買いに出た。
(おわり)
(ボタンホールをかがるのはコンピュータミシンにお任せしますの図)